国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長である新井紀子さんの著書。数学者という観点で、AI 技術開発にも携わっている。本書の前半ではAI の定義、開発の歴史、限界について。後半は、AI が苦手、代替できない分野での仕事、スキル、子どもたちの学力調査(特に読解力が重要)、その結果の考察となっている。
AI というのは知能を持ったコンピューター(または人間がそう感じる動作をするコンピューター)であって、現状まだない。なぜかというと、そもそもコンピューターは四則演算(数学)でしか計算できないため、まず人間の知能を数学的に表現する必要があるが、それができていない。
一方、世間一般的に使われているAI は、AI 技術のことであり、AI を実現するために開発されている様々な技術のこと。音声認識、自然言語処理、画像処理、情報検索、文字認識など。Siri には音声認識技術、自然言語処理技術が使われています。
つまり、要素技術は格段の進歩を遂げている一方、真の意味でのAI は無理じゃないか(なぜなら、人間の知能自体が測定できていないから)というのが新井さん及び業界関係者の認識。
一方で、AI 技術が進歩していくと、人間の仕事が代替されていく可能性も極めて高い。なぜなら、AI 技術にも得意不得意があり、得意な部分については、人間は足元にも及ばないから。工場の生産ラインとかロボット化が進みブルーカラーの人間が減りましたが、これがホワイトカラーにも及ぶ。それも、ここ10~20年で約50%の人間が対象になるそうな。。。
オックスフォード大学の研究チームの成果とのことで、日本語記事にもなっていますね。データ入力といった事務系の仕事の他に、銀行融資、保険審査といった仕事も入っていて驚きでした。膨大なデータを基に定型化が進んでいる業務は軒並み置き換えされるということですね。。。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/40925
100年くらいかけて大企業が自動生産を進めてきたことが、今後20年以内でいきなり発生するので、世の中へのインパクトは甚大。新しい仕事に就くためのスキルを磨けないと、失業の危機や、低賃金環境など、社会全体に軋轢が生じてしまうことを新井さんは危惧しています。
AI に代替できず、10~20年後まで残る仕事については、○○の監督者ってのが多い、○○療法士、○○カウンセラー、セールスエンジニアなど、機転を利かせたり、人とコミュニケーションを取ったり、お客からの課題に対するソリューションを打ち出したりと、定型化しづらい仕事はAI は不得意です。そして、人間も不得意なようで、現時点ではあまり多くの人にはできません…
じゃあ、どうすれば、そういったスキルが備わるのか?
面白かったのが、読解力が備わっている子どもは教科書さえ読めば、1人で勉強ができてしまうとのこと(笑)
有名私大の中学受験は読解力を問う問題が多く、確かに日能研の電車広告「シカクい頭をマルくする」では、中学受験問題が掲載されていますが、単なる暗記だけではなく、問題をよく読んで、自分の頭でいろいろ考えないといけない感じがしますね!
https://www.nichinoken.co.jp/shikakumaru/
つまり、有名私立高校は、中学生時点で読解力が非常に高い子どもを選抜しているので、部活に明け暮れていても、勉強さえ始めてしまえば、有名大学に合格してしまうのは道理であるとのこと。
新井さんが実施した学力テストでは、中学生は1年生から3年生になるにつれ、読解力が向上する傾向があるも、高校生ではそれが見られない。
また、読解力はある程度のレベルに達しないと、正答率が低いままというものもある。AI にはまだ難しい同義文判定、推論、イメージ同定、具体例同定のうち、イメージ同定と具体例同定(辞書・数学)は、高2でも正答率がそれぞれ53.9%、43.9%、42.4%と、人間もAI も変わらないレベル。
旧帝大といった上位の国公立大に入学できる子どもは、おしなべてどの問題も成績優秀ですが(そりゃそうだ(笑))、上記の分野においては、他の偏差値グループよりも特別高い成績を収めたとのこと。
これは、書いてあることを正しく理解し、順を追って勉強できる人間が案外少ないということを意味しています。社会人になれば、マニュアルや、規格を読んで、作業、企画提案、製品開発といったことをやることもあるのですが、そういったことができない。。。
また、課題が、どこにあるかを読み解き、対人であれば聞き取り、適切な質問で表層ではなく原因を突き止め、解決するための道筋へと進む…うーん、高度だな(笑)
超絶お怒りのお客をなだめて、問題を聞き取り、解決策を提示するとかはAI にはできないですね。Siri が、「なんと言っているかわかりません」と、応えた日には、火に油を注ぐことおびただしいw
じゃあ、読解力をどう高めるかといった所には現状、処方箋がないとのこと。新井さんの個人的な経験から、大人になっても伸びるそうですが、どうすればよいかは不明。。。
偏差値と読解力には正の相関があるものの、読書量、スマホの日々の操作時間、塾、習い事、新聞の購読などに明確な相関関係は見当たらずとのこと。。。
個人的にはその両親にも同様のテストを受けてもらい、読解力がどの程度か知りたかったですね。遺伝的な要素について考察があると、そこに傾きかねないからかな?
埼玉県戸田市では2016年から小6~中3までが毎年読解力テストを受験し、一部では先生方も受験しているそうです。どこで間違えるのか、教科書を読むのが案外難しいことを自覚して教えるようになってから、埼玉県独自の学力学習状況調査で中位の成績が中学校は1位、小学校は2位にレベルアップ!!
戸田市の平成30年度の全国学力・学習状況調査の結果がありました。全体的に全国平均を上回っていますね。下回っている項目もありますが。。。
ググると教育に力を入れています的なものが引っかかるので、定量的にデータを取り、先生方が努力されているのでしょう!!http://www.toda-c.ed.jp/soshiki/10/108.html
新井さんが開発したリーディングスキルテストという読解力を測定するテストですが、これは、現在、小中高向けです。しかし、2019年度からは個人も受験できるとのこと。ぜひ受けてみたいです。https://www.s4e.jp
子どもの心配をするより、自分の行く末を心配するのが先かもしれないというのはなかなか恐ろしい(^_^;)